それは不思議な時間だった。
知盛に連れられた先、将臣君が驚いて目を見張って、知盛を少し睨んで。
でもすぐ笑って。

3人でゆっくりと勝浦を歩いた。
剣を交わさず、言葉を交わす。
海辺にたどり着いたときには夕暮れだった。
その夕焼けが、やけに綺麗で。

―――それは不思議な時間だった。
現代に戻った今も、望美はその夕日を思い出す。




つかの間のたわむれ




「将臣君〜!」

あくる朝、望美が2人の泊まる宿に顔を出すと、知盛一人がいて不機嫌そうに望美を睨んだ。

「・・・・・・・・呼ぶのは有川一人か」
「わっ、起きてたの知盛!おはよう〜」
「・・・・・・・おはよう」

多少睨まれても、ものともせず望美は笑う。
悪びれず、無邪気に微笑む望美に知盛は毒気を抜かれて嘆息した。

「こんな朝早くから起きてるなんて思わなくてびっくりしたよ。将臣君は?」

きょろきょろ、と望美は将臣を探す。
その姿に、知盛はどこかむかつきを覚えて、知盛はそっぽ向いた。

「知らぬ」
「えー、もう!!」

約束してたのに!
ぷりぷり怒る姿は愛らしい。それを横目で知盛は観察する。
望美を、ここに連れてきたのは気まぐれだった。

自分を知り、還内府の正体を知り、敵と断言する女。
美しいかと思えば、今のように愛らしい。
そうかと思えば獣のような瞳をする。
見ていて飽きない女だった。

「仕方ないなあ。知盛、昼寝する?」
「・・・・・・・街には出ずにか・・・・?」
「へ?付き合ってくれるの??」

どうやら望美は「付き合ってくれない」前提で昼寝を提案したようだ。
付き合ってくれないと思うなら、帰ればいいのに、と知盛は思う。
こんな事をしている暇はない、とでも言うかと思うのに。
じっと見ていると、思考を読んだように望美が苦笑した。

「・・・・・・急がなくてもきっと怨霊は退治されるもの。大丈夫よ」

それが時の廻りだから、と、どこか醒めた目で望美は笑う。
この目が一番、知盛を惹きつけた。

「今はここに、いたいの・・・・・」

望美の表情を、不意に吹いた風が隠した。
知盛は咄嗟に湧いた焦燥で、思わずその手をつかむ。
望美が驚いた目で、振り返った。

時が、止まる。


「―――何やってんの、お前ら」
「将臣君!」
「よ、望美」

不意の呪縛から解き放たれて、どこか残念な気分で知盛は将臣を見遣った。
将臣の珍しい真剣な目とかち合う。

(・・・・・・・・・ほう?)

必死に探していた幼馴染。
源氏の姫神殿は、やはり、有川の思い人であるようだ。
そう察して、知盛は僅かに哂う。

(この女は有川を知り、有川は源氏たるを知らぬ・・・・・か)

面白い。

「・・・・盛っ、知盛ってば!」
「・・・・・なんだ?」
「もう、聞いてなかった!将臣君帰ってきたし、行くよ!怨霊探し!」

望美はまっすぐに知盛に向けて手を伸ばす。
後ろで「還内府」ではありえない笑みで将臣が笑う。
知盛はまた僅かに哂い、腰を上げた。




望美をここに連れてきたのは気まぐれだった。
自分を知り、敵だと言うのに剣を抜かない女。
けれど紛れもなく強い、女。
有川が探し、思い続けた女。
事情を有川には語らず、俺には語る、その脈絡のなさも。
無邪気なようで、醒めた目もする、相容れなさも。
すべて、知盛に興味を抱かせる。
飽きさせない。


最初は気まぐれ、単なる遊び、だった。