腕を掴む掌には力が入ってるようには思えないのに、望美はそこから逃げ出すことが出来ない。
知盛は器用にも、望美の手を傷めないでいられるだけの力加減を昨夜のうちに覚えたのだ。
「は、離して!」
「クッ・・・・逃げられると追いたくなるものだ・・・」
言いながら、だからだろうか、と思う。
だからだろうか。
この女が逃げるから、こんなにも追いたくなるのだろうか。
知盛は自分の心の底を探るように自問する。
望美は間近な知盛の顔から目が離せずに、いたたまれなくなる。こんなゲームみたいに、追いかけられて、見惚れるなんて。
「追うから、逃げたくなるんじゃない・・・!」
泣きそうなのを誤魔化して、望美が気丈に知盛を睨みつけた。その焔のような目が、一層知盛を加速させるとは知らないで。
果たして知盛は、その瞳に溺れるように、望美を引き寄せた。
「ちょ、ちょっと・・・!」
いきなり抱き締められて、望美は慌てる。
これはあの退廃を愛した知盛なのか?
まるで別人のようだ。
(実は銀だったりするオチじゃないでしょうね・・・!)
そう思いつつ、望美は分かっている。
間違えるはずがない。
これは、知盛だ。