調子を狂わせるのはいつも君。


恋と戸惑いのラプソディ



それを思いついたのは突然だった。
だから、春歌が悪いなんて思わない。


だけど。



「――――はーい!」
「トキヤです。今、いいですか」
「トキヤくんっ!?」


バタバタっと音がして、しばらく待つと、ほどなく春歌が現れた―――

まったくもって許しがたい姿で。



「お待たせしましたっ!どうしたんですか?」

「春歌………………何をしていたんですか?」


思わずトキヤは問いかけてしまう。
だが、春歌はきょとんとした。


「へ?」


無理もない。

春歌にとって、現在の格好は特におかしいところはないのだ。
というか、トキヤだって、たとえば友千香が同じ格好をしていても、何とも思わないだろう。


だが、トキヤにとって、春歌は違う。

違いすぎるのだ。



ただの少女でもなければ、普通の恋人でさえない。



唯一無二の、心から愛しいただ一人の存在だ。


歌も、トキヤも、彼女なくしては存在しえない。
……それぐらいの人。


正直、相談しようとしていた歌のフレーズなどは吹き飛んだ。
そんなものはどうでもいい。
いや、よくないが。
でも、とりあえず、頭からは飛んでしまった。


とにかく、こっちだ。


「その格好です。何をやっていたんですか」


現れたのが自分だからいいものを。
こんな無防備な格好で人前に―――男の前に出てくるなどあり得ない。

トキヤはむっつりして言ったのだが、春歌はさらにきょとんとした。
だって……


「これは、トキヤくんと選んだお洋服ですよ?」
「室内着だと思って選んだんです!」
「だから室内で着ていますが……」
「…………っ、そ、外に、出てきたでしょう!」


春歌は目をぱちぱちする。


「はあ…………」


何を怒られているのか、本当にサッパリわからない。
だが、とりあえずこの服がいけないのだということは分かったので…………


……ちらり、と、自分の服を見た。


(気に入ってたんだけどなあ…………)


好きで。

大好きで、大事で愛しい人が似合いそうだと選んでくれた服。




でも、その人が気に入らないなら……
仕方、ないかも。




「じゃあ……着替えてきますね?」


春歌はそう言って踵を返そうとしたのだが、それを慌ててトキヤは止めた。


「だ、ダメです!」
「ほえ?」


ぎゅっと握った手を介して、二人の熱が交わる。
視線も。



そうなったらもう終わり。
元から、トキヤだって、怒っていたわけではないのだ。



「…………似合っていますから…………その、早く部屋に入りましょう…………」
「はあ…………どうぞ」



脱力したトキヤに、春歌は首を傾げつつ促した。
それでも、トキヤが用件を話し始めるのに……まだ少しかかったのだが。



どうしたって、かなわない。
かなうはずない。

私の心を乱すのはいつだって君。


「…………頼むから、その格好は私の前だけにしてください…………」


弱弱しいトキヤの懇願に、わからないながらも、春歌は微笑んで頷いた。



2012.8.29
拍手に上げていたベタ惚れトキヤです

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