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「・・・・・・・っあ、う・・・・!」
空をきる手。
苦痛に歪む顔。
少女はもうこれで三日三晩苦しんでいる。
年よりもか細い、可憐な美貌。
柔らかな灯火を弾いて光る金の髪が乱れていた。
その苦しむ様子はあまりにも痛々しくて、この少女を取り巻く数人は、もう彼女がずっと身内でもあったかのように親身な心配で傍を離れられない。
この城の主を除いて。
その主も、職務ゆえに離れるだけで、それ以外の時間はほとんどをここで過ごした。
冷徹を謳われる火雷には珍しい姿である。
「サティ兄様、早く・・・・!」
「何やっていたんだ!」
少女の枕元、その両脇を固めて離れない弟二人に、ナーサティヤは僅かに苦笑した。
戦後の処理は膨大で、それも知っているのだろうに、二人にはこの少女の容態の方が心配なようだ。
シャニは分かるが、アシュヴィンまで。
だがそれは二人には限らない。
「・・・・・トオヤ、まだ難しいか」
ナーサティヤは静かに問いかける。
ナーサティヤが連れた意識のない少女を見た途端、取って返したアシュヴィンが連れてきた巫医の少年。
土蜘蛛の柩でその表情は分からないが、彼は緩く首を振った。
「・・・・・・・そうか・・・」
少女の身体には特に外傷はない。
けれど・・・炎の中、どれほど曝されたのだろう。
その頼りない肢体は高熱を帯びて、もうずっと僅かな水だけしか通さないのだ。
ここからが本番―――
息を詰めた、そのときだった。
「・・・・・・・・千尋か?」
「その声―――アシュヴィン!」
闇の中に響いた傲慢な、優しい声。
千尋は躊躇わず駆け出してしまった。村人の前で。
忍人がちっと短く舌打ちして後を追う。
僅かにざわめいた村人を柊が丸め込んで外に出したが・・・疑惑はこれで植えつけられてしまった。
千尋は良くも悪くも正直なので、と風早が苦笑する。
背後の苦労も知らないで、千尋はアシュヴィンに抱きついている。
「アシュヴィン!アシュヴィン!」
「・・・・・よく元気でいた、千尋・・・・!」
感極まって、アシュヴィンは強く千尋を抱き締めた。
ふ、と、千尋が離れる。
「サティは?」
「・・・・・来ているが。・・・・何だ、こうしているときくらいいいだろう」
「アッ、アシュヴィン!そんな時じゃな・・・・!」
ナーサティヤを気にする千尋にむっとして、アシュヴィンが腕に力を込め、千尋が暴れる。
その拍子に、千尋は意中の姿を見出す。
アシュヴィンの奥、白皙の美貌。
「―――サティ!」
するり、と腕を逃れてナーサティヤに向かっていった少女を捕まえられなかった腕が空に浮く。
「・・・・・くそ」
アシュヴィンは小さく毒吐いた。
傍らのリブが苦笑する。
千尋は、思わず、といったように広げられた腕に臆することなく飛び込んだいった。
「―――千尋・・・・?」
「そうよ!サティ・・・・!会いたかった・・・・!」
どれほど離れていただろう。
ナーサティヤは実感のないまま、儚い肢体をそっと抱き締める。金の髪。年より幼い体躯。
すべての悩みも思いも、この体を抱いたら最後だった。抱き締めたら離せなくなる。
「サティ・・・・」
甘く呼びかける声は頼りなげで、千尋がこれまでいかに気を張っていたかを物語るようだった。