ページの繋がりはありません。
「参ったね。・・・・・驚いたよ」
「ふふ、驚かせようと思って名前は伏せてもらったんだ〜」
まだ驚愕のさめやらぬヒノエは、とりあえずと座って苦笑する。対する望美は長旅の疲れも見せず、元気そうに笑う。
こうしていると、まるでずっと一緒にいたかのような錯覚に襲われる。
「一人で来たのか?」
そんなわけない。言ってから気づくなんて、つくづく動揺しているようだ、と、ヒノエは自分を恥じた。望美は気付かぬ様子で、首を振った。
「ううん、もう帰ってもらったけど、三人・・・?」
もう望美の傍に譲はいない。白龍も。
現代に還ったり、ヒノエのように己の場所に帰ったり。だから、首を傾げながら言うのは、きっと八葉ではないのだ。
きっと、九郎が選んだ随従。
やはり胸が痛かった。
彼女が九郎の庇護下にあるのだと、思うだけで。
「可愛い・・・・・」
「ちが・・・ンン!」
一度口づけてしまえば、抑えることなんて少しも思い浮かばなかった。
躊躇っていたのが嘘のように、ヒノエは望美を貪った。呼吸を奪うように、あるいは、絡めとるように、ヒノエは思うさま望美を翻弄した。
月明かりだけの部屋。几帳に隔てられているだけで、庭は開放されて。そんな誰に見られるとも知れない場所で、望美は逃げようと必死だ。
けれど、どんな意図か分からなくても、恋しい人に情熱的に迫られて揺れないでいられる女はいるだろうか。可愛いと言われて、嬉しくならないでいられるだろうか。
それでなくとも巧みなヒノエの口づけに、初心な望美が立ち向かえるはずもない。
望美は懸命に己を叱咤した。
「だ、め・・・・ヒノエく・・・・!」
流されまいと、必死に抗った。
「どうして・・・?気持ちよくなかった・・・?」
ようやく口づけをやめたヒノエに覗き込まれて、望美の中の女が震える。
「そ、そういう問題じゃないの!駄目なの・・・!」
ヒノエには、あの姫がいるではないか。
こんなこと。自分だったら嫌だと思う以上、望美にこれ以上流される気はなかった。
しかし、ヒノエはそれを九郎への操立てだと勘違いした。
意地悪く笑う。
「・・・ああ、九郎のときに満足できなくなるから?」
望美は何のことか分からず、一瞬止まった。それをヒノエは図星なのだと思った。
「ここにいればいい。別に帰らなくていいだろう?」
ヒノエはいささか強引に望美を組み敷くと、うって変わって髪にはそっと口づける。
「熊野はお前を歓迎するぜ?」
少なくとも、昼間に出した文の通りに九郎らが動けば、望美は源氏から切り離せる。