どちらが確信犯?
「おや、望美さん。可愛いですね」
それは熊野から戻る道中。
不意に消えたと思っていた望美を探すと、川のほとりで何やら覗き込んでいる。
弁慶が上から覗くと、流れる水面に可憐な耳飾りが望美の耳朶を飾っていた。
「弁慶さんっ」
慌てて望美が振り返る。
「――ヒノエですか?」
問いながら、絶対そうだと確信していた。
可憐で精緻な耳飾り。
小さいけれど真円の上等な真珠。
悔しいほどに似合っていた。
小さくついた赤い色が、まるで所有印のよう。
「はい、そうなんです。普段は出来ませんけど・・・・・ちょっと、嬉しいかも」
「ふふ、まだ外さなくても。よく似合ってますよ」
「でも、戦闘になったら、落とすかもしれないから」
言いながら望美は片方を外した。
余程似合っていたのか、外した片側が何だか物足りなく見える。
といって・・・・このまま付けさせるのは、少し、癪。
「ん?んん?と、取れないっ・・・・・」
「ふふ、耳飾りも離れたくないようですし、暫くつけていてはどうですか?」
「え、でも・・・・」
「このあたりでは暫く戦闘もないでしょうし」
重ねて言えば、やっぱり外すのが寂しかったのか、望美は少し思案しつつ頷いた。
「そう、ですね。・・・じゃあ、もう少しつけてます」
鮮やかな笑顔は弁慶の心も温めてくれる。
・・・・・やはり悔しいが、耳飾りは望美に良く似合った。
「望美さん、少し後ろを向いて、じっとしてもらえませんか?」
「・・・・・?はい」
弁慶は予備に用意してある自分の髪紐で望美の髪を纏めた。
・・・・・せめて、このくらいは。
「はい、できました。見てみてください」
「ありがとうございます!・・・・あ、耳飾りがはっきり見える!」
一つに括ったせいで、耳朶が隠れず、耳飾りはいっそう映えた。
望美は気に入ったようで水面に映していたが、しばらくすると、朔に見せてきます!と走っていった。
弁慶は微笑みを深くして歩いて戻った。
髪形の変化を、剣の稽古をしていた九郎が気付いた。
「お、動きやすそうだな!」
耳飾りに気づくのが遅れるのは仕方ない。
しかし、珍しく外套を頭から外してやってくる弁慶に目をやって、こんなことには気付いた。
「弁慶とおそろいみたいだな」
望美は遅れて歩いてくる弁慶を振り返る。
金色に光る髪は、そういえばいつもは隠されているが、長くて一つ括りだ。
望美には見えないが、位置は一緒。
「おそろい?」
可愛らしい響きに望美は照れつつも喜んだ。
仲良しな証拠みたい。
朔にも褒められ、自分でも気に入ってしまった。
「・・・・・・・あんたね」
「おや、ヒノエ、いい耳飾りを贈りましたね」
「・・・・・・・・」
望美と一緒に弁慶が並んで歩けば、同じ位置で髪がぴょこぴょこ揺れる。
「あんたとお揃いのために贈ったんじゃないんだけど」
「ふふ、ここは引き分けみたいですよ」
弁慶の言の通り、望美は耳飾りをつければ髪を結うようになってしまった。
嬉しそうに笑うから、ヒノエも文句はつけられない。
贈り物は、成功したけれど。
「・・・・・・・・心は譲らないぜ?」
「こちらのセリフですよ」
叔父と甥。
望美を巡る戦いは、まだ、始まったばかり。
Fin.