九郎×望美
現代に九郎がきて、半年と少し。
夏休みになって、望美は毎日九郎のところへ行く。
・・・・・・どうせお隣なんだけど!
「花火?」
「うん、買ってきたの。日が暮れたらやりましょう」
九郎は明るく頷いて、少ししてぽつりと言った。
「熊野の浜で、見たやつだな」
それとは少し、違いますけどね。
望美が言うのに、「そうなのか?どんなのだ?」と、興味深そうに訊ねる。
その顔に、影や寂しさはないけれど。
今も少し、考える。
本当に和解の道はなかったのだろうかと。
☆
「手に持つのか。危なくないか?」
「大丈夫ですよ!はいっ!」
河川敷で、有川兄弟も巻き込んで花火大会だ。
と言っても、手持ち花火だけなんだけど。
「わわっ・・・・・っと・・・・ほう・・・・綺麗だな」
「ふふ、でしょう?」
吹き出すようにいろんな色に変化しながらそれは乱れ咲く。
すぐ終わり。
消える間際はちょっと寂しい。
・・・・・・・・あっちは凄いにぎやかだけど。
譲君、・・・・・大丈夫かな・・・・・・。
「これもいいな!」
「はい!景時さんみたいなのは、お祭のときです!」
「祭りか。それも行こうな!」
望美が頷く。九郎が笑う。
あの頃一度は諦めた、幸せな世界。
最後に線香花火が残った。
望美が一際用心深く、そっと線香花火に点火する。
が。
「む」
「あちゃ」
九郎が揺らして、すぐにそれは落ちてしまった。
「これはじっとしていなければならないのだな」
「ええ。・・・・・やめます?」
どこか腕白を咎められた子供のような九郎に少し、望美が笑う。
いや、と九郎は新しい線香花火を取り出した。
今度は揺らさないように、持ち手を短くして。
望美はまた慎重に火を近づけた。
呼吸さえも遠慮してしまうような静寂に、小さい火花が生まれて散る。
中心のぷっくりとした火の玉は、今にも落ちそうでいて、なかなかしぶとい。
「・・・・・・いいな、これは」
不意に九郎が言った。
「線香花火?」
「うん、俺はこれが一番好きだ」
そう言うと、九郎は優しい笑顔のまま、口を閉ざす。
望美もじっと線香花火を見続ける。
松明のような、灯火のような、優しいオレンジ。
こんな風に優しく、そっと九郎は生きたかったのではないのだろうか。
―――ここではない、鎌倉で。
花火が終わる。
立ち上がろうとしない望美の頭をくしゃっと九郎が手荒に撫でた。
「来年も、しような」
「・・・・・はい!」
願った未来ではないのかも。
少なくとも望美は九郎のもとに不意に現れた闖入者だ。
これまでの願いときっと一致はしない。
それでも。
「傍に、いてくれな」
「はい!」
一緒に生きようと、決めたんだ。
知盛×望美
ちょこっと大人向け。
よろしい方だけどうぞ^^
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知盛に花火を見たい、と言ったのは望美である。
どうせ嫌がると思っていたが、案外あっさり知盛は頷いてくれた。
珍しいこともあるものだ、と思っていたら―――
「・・・・・・どうしてホテル?」
「人混みは苦手だ・・・・」
「それがいいのにー!」
せっかく浴衣を着たのに。
望美は少し膨れたが、知盛は意に介さない。
だが、暫くして花火が夜空に咲き出すと、望美はそれに夢中になった。
手が届きそうなほど近くに咲く大輪。
音が窓ガラスにビリビリ響く。
室内を暗くしていても、花火が上がるたびに眩しいほどにそれは煌く。
「わ、凄い!ねえ、知盛も見―――」
「見ている、ぜ?」
「わ、私じゃなくて、・・・・あっ、は、花火を・・・・!」
知盛が大人しくしていたのは10分もなかった。
望美を窓に囲い、悪戯に追いつめる指。
息を飲み込もうとする唇。
「と、知盛・・・・・・っ」
「見てるぜ・・・・?なかなか、いい」
夜空に咲く花火。
照らされながら、恥ずかしげに身を捩る望美も。
両方。
「ほら、ちゃんと見ろ・・・・・」
知盛はようやく望美から唇を離し、望美を花火へと向けさせた。
漆黒の夜空に咲く花火と。
知盛の腕の中で開花しかけている華が。
窓に。
「――――終わるまで、待てないの・・・・?」
望美が恨めしげに赤い眦で知盛を詰った。
馬鹿馬鹿しそうに知盛が哂う。
「待てると思うか・・・?俺が、お前を前に・・・・?」
そう言いながら、浴衣を乱しはじめる指。
こぼれていくのは吐息と理性。
「――――お前も早く、俺に溺れてしまえ」
囁かれた愛の爆弾。
(・・・・そんなの、もうとっくに・・・・)
だけどそれは、まだ言えない。
ヒノエ×望美
「姫君!」
「わ、ヒノエくん!」
「花火大会、行かないかい?」
向こうで見つけた運命の相手。
忙しい彼の出没はいつも突然。
「行けるの?!」
「当然」
暫くぶりに現れた彼は、花火大会のチラシを手に、あざやかに微笑んでみせた。
☆
「凄い人だね」
「お祭だもん!」
「お前も可愛いし」
「お・・・・・・お祭だもん」
慣れない浴衣とアップした髪は、母の仕業だ。
「ヒノエくんと行くの」と言うと、「任せなさい!」と言われてあれやこれやあてられて・・・・
今に至る。
ちょっと気恥ずかしい。
なんか、思いっきり気合入ってるみたい。
・・・・・入ってるんだけど。
「これは去年の写真?」
「そうじゃないかな?」
チラシを掲げてヒノエが問う。
左手はしっかり望美と繋がれている。
力を込めない、ヒノエの柔らかな手の繋ぎ方は望美の心をあたためてくれる。
「景時の陰陽術みたいだね」
「火薬使うんだよ、確か」
「へえ」
そうこうしている内に、日はようやく暮れ始めた。
ヒノエは期待に目を輝かせる望美を嬉しそうに眺めている。
シュ・・・・・・・ッ
・・・・・・・・・ドン!
「わあ・・・・」
「綺麗だね」
「うん、でしょ!」
ヒノエは軽く笑った。
空の花もだけどね、望美。
「火薬って言ったね。じゃあ熊野でも作れるかな」
「ふふ、どうだろ〜。でも、こういう火薬の使い方なら大歓迎だよ」
「・・・そうだね、その通りだ」
上がり続ける花火。
色も、趣も変えて、それは1時間ほども続いた。
「首が痛くなっちゃった」
「そりゃあれだけずっと上を向いていたらね」
「ヒノエ君は痛くないの?」
ヒノエの揶揄にむっとして望美が口を膨らませると、ヒノエが小粋にウィンクした。
「オレはお前の顔ばかり見てたからね」
「えっ・・・・・も、もう、そんなことばっかり!」
「仕方ないさ。一番綺麗なのが傍にいたら、見ちまうよ」
――――ヒノエの軽口は健在である。
彼の場合、これはすべて本音なのだが。
「・・・・・・・早くオレのものにしたいけどね」
「え?」
雑踏に紛れさせた本音は望美の耳には届けない。
もう少し、余裕な男でいたいから。
その夏。
頭領が持ち帰った情報で、熊野で花火の開発がされたとかされないとか。
結果を望美が知るのは、もう少し後。