拍手 2009夏





    九郎×望美

 現代に九郎がきて、半年と少し。
 夏休みになって、望美は毎日九郎のところへ行く。
 ・・・・・・どうせお隣なんだけど!



「花火?」
「うん、買ってきたの。日が暮れたらやりましょう」

 九郎は明るく頷いて、少ししてぽつりと言った。

「熊野の浜で、見たやつだな」

 それとは少し、違いますけどね。
 望美が言うのに、「そうなのか?どんなのだ?」と、興味深そうに訊ねる。
 その顔に、影や寂しさはないけれど。


 今も少し、考える。
 本当に和解の道はなかったのだろうかと。






              ☆






「手に持つのか。危なくないか?」
「大丈夫ですよ!はいっ!」

 河川敷で、有川兄弟も巻き込んで花火大会だ。
 と言っても、手持ち花火だけなんだけど。

「わわっ・・・・・っと・・・・ほう・・・・綺麗だな」
「ふふ、でしょう?」

 吹き出すようにいろんな色に変化しながらそれは乱れ咲く。
 すぐ終わり。
 消える間際はちょっと寂しい。

 ・・・・・・・・あっちは凄いにぎやかだけど。
 譲君、・・・・・大丈夫かな・・・・・・。

「これもいいな!」
「はい!景時さんみたいなのは、お祭のときです!」
「祭りか。それも行こうな!」

 望美が頷く。九郎が笑う。
 あの頃一度は諦めた、幸せな世界。


 最後に線香花火が残った。
 望美が一際用心深く、そっと線香花火に点火する。
 が。

「む」
「あちゃ」

 九郎が揺らして、すぐにそれは落ちてしまった。

「これはじっとしていなければならないのだな」
「ええ。・・・・・やめます?」

 どこか腕白を咎められた子供のような九郎に少し、望美が笑う。
 いや、と九郎は新しい線香花火を取り出した。
 今度は揺らさないように、持ち手を短くして。
 望美はまた慎重に火を近づけた。

 呼吸さえも遠慮してしまうような静寂に、小さい火花が生まれて散る。
 中心のぷっくりとした火の玉は、今にも落ちそうでいて、なかなかしぶとい。

「・・・・・・いいな、これは」

 不意に九郎が言った。

「線香花火?」
「うん、俺はこれが一番好きだ」

 そう言うと、九郎は優しい笑顔のまま、口を閉ざす。
 望美もじっと線香花火を見続ける。

 松明のような、灯火のような、優しいオレンジ。
 こんな風に優しく、そっと九郎は生きたかったのではないのだろうか。
 ―――ここではない、鎌倉で。




 花火が終わる。
 立ち上がろうとしない望美の頭をくしゃっと九郎が手荒に撫でた。

「来年も、しような」
「・・・・・はい!」


 願った未来ではないのかも。
 少なくとも望美は九郎のもとに不意に現れた闖入者だ。
 これまでの願いときっと一致はしない。

 それでも。

「傍に、いてくれな」
「はい!」

 一緒に生きようと、決めたんだ。



――――――――――――――――――――

もしかして初めての九望?
いつも報われない九郎が大好きな管理人です。
リクエストしてもらって、よかったね!九郎!!











知盛×望美

ちょこっと大人向け。
よろしい方だけどうぞ^^










 知盛に花火を見たい、と言ったのは望美である。
 どうせ嫌がると思っていたが、案外あっさり知盛は頷いてくれた。
 珍しいこともあるものだ、と思っていたら―――



「・・・・・・どうしてホテル?」
「人混みは苦手だ・・・・」
「それがいいのにー!」

 せっかく浴衣を着たのに。
 望美は少し膨れたが、知盛は意に介さない。
 だが、暫くして花火が夜空に咲き出すと、望美はそれに夢中になった。

 手が届きそうなほど近くに咲く大輪。
 音が窓ガラスにビリビリ響く。
 室内を暗くしていても、花火が上がるたびに眩しいほどにそれは煌く。

「わ、凄い!ねえ、知盛も見―――」
「見ている、ぜ?」
「わ、私じゃなくて、・・・・あっ、は、花火を・・・・!」

 知盛が大人しくしていたのは10分もなかった。
 望美を窓に囲い、悪戯に追いつめる指。
 息を飲み込もうとする唇。

「と、知盛・・・・・・っ」
「見てるぜ・・・・?なかなか、いい」

 夜空に咲く花火。
 照らされながら、恥ずかしげに身を捩る望美も。
 両方。

「ほら、ちゃんと見ろ・・・・・」

 知盛はようやく望美から唇を離し、望美を花火へと向けさせた。
 漆黒の夜空に咲く花火と。
 知盛の腕の中で開花しかけている華が。

 窓に。

「――――終わるまで、待てないの・・・・?」

 望美が恨めしげに赤い眦で知盛を詰った。
 馬鹿馬鹿しそうに知盛が哂う。

「待てると思うか・・・?俺が、お前を前に・・・・?」

 そう言いながら、浴衣を乱しはじめる指。
 こぼれていくのは吐息と理性。

「――――お前も早く、俺に溺れてしまえ」

 囁かれた愛の爆弾。


(・・・・そんなの、もうとっくに・・・・)


 だけどそれは、まだ言えない。





―――――――――――――――――




・・・・・・だってますます好きにされちゃうもんね!

知盛と花火。
きっと見るとしたらホテルだろう、と思った葉明でした。












ヒノエ×望美



「姫君!」
「わ、ヒノエくん!」
「花火大会、行かないかい?」

 向こうで見つけた運命の相手。
 忙しい彼の出没はいつも突然。

「行けるの?!」
「当然」

 暫くぶりに現れた彼は、花火大会のチラシを手に、あざやかに微笑んでみせた。











「凄い人だね」
「お祭だもん!」
「お前も可愛いし」
「お・・・・・・お祭だもん」

 慣れない浴衣とアップした髪は、母の仕業だ。
 「ヒノエくんと行くの」と言うと、「任せなさい!」と言われてあれやこれやあてられて・・・・
 今に至る。
 ちょっと気恥ずかしい。
 なんか、思いっきり気合入ってるみたい。
 ・・・・・入ってるんだけど。

「これは去年の写真?」
「そうじゃないかな?」

 チラシを掲げてヒノエが問う。
 左手はしっかり望美と繋がれている。
 力を込めない、ヒノエの柔らかな手の繋ぎ方は望美の心をあたためてくれる。

「景時の陰陽術みたいだね」
「火薬使うんだよ、確か」
「へえ」

 そうこうしている内に、日はようやく暮れ始めた。
 ヒノエは期待に目を輝かせる望美を嬉しそうに眺めている。

 シュ・・・・・・・ッ
 ・・・・・・・・・ドン!

「わあ・・・・」
「綺麗だね」
「うん、でしょ!」

 ヒノエは軽く笑った。
 空の花もだけどね、望美。

「火薬って言ったね。じゃあ熊野でも作れるかな」
「ふふ、どうだろ〜。でも、こういう火薬の使い方なら大歓迎だよ」
「・・・そうだね、その通りだ」





 上がり続ける花火。
 色も、趣も変えて、それは1時間ほども続いた。


「首が痛くなっちゃった」
「そりゃあれだけずっと上を向いていたらね」
「ヒノエ君は痛くないの?」

 ヒノエの揶揄にむっとして望美が口を膨らませると、ヒノエが小粋にウィンクした。

「オレはお前の顔ばかり見てたからね」
「えっ・・・・・も、もう、そんなことばっかり!」
「仕方ないさ。一番綺麗なのが傍にいたら、見ちまうよ」

 ――――ヒノエの軽口は健在である。
 彼の場合、これはすべて本音なのだが。

「・・・・・・・早くオレのものにしたいけどね」
「え?」

 雑踏に紛れさせた本音は望美の耳には届けない。
 もう少し、余裕な男でいたいから。





 その夏。
 頭領が持ち帰った情報で、熊野で花火の開発がされたとかされないとか。

 結果を望美が知るのは、もう少し後。







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ヒノエは現代には残らないんですよね(−−;
現代っ子な彼、面白そうなんですけどね。