望美からの手紙は意外なもの。
だけど希望の光。
それは、和議の裏を知らせるもの。
そして、本物の和議を成そうとするものだった。

あいつが、どう思ってこれを寄越したのか、俺は知らない。




お前の瞳の先




「将臣君!これからまた内裏?」

軽やかに聞こえてきた足取りは望美のもの。
将臣は「おう」と気軽に応え、足を止めた。

「お前、いつここに来たわけ?」
「さっきだよ。いけなかった?」
「・・・・・・いけなくはないけどよ」

本当はいけないと言ってやりたい。
将臣に与えられた邸には、要注意人物が二人もいるから。

「・・・・・・・将臣殿を見送りに出られたのですね、十六夜の君」
「重衡さん!」
「ふふ、銀でよろしいですのに」

・・・・・出た。
要注意人物その1。
いつからか望美と会っていたらしく、望美を十六夜の君と呼び、求愛を続ける男・重衡。

「まったくつれないことだ・・・・神子殿は」
「・・・・・・・・・」

・・・・・要注意人物その2、知盛。
こいつはもう熊野で会っていて、それを知っているから何も言えねえ。

救いは望美が恐ろしく鈍いことだ。
そうでなければ、八葉の秋波の只中に将臣だって望美を置いておけなかった。

今も望美は知盛をペシッとやりつつ、「二人は内裏に行かないの?働きなさい!」と一喝している。
もっと言ってやってくれ、望美。

余裕と苦笑を混ぜて笑いながら将臣は考える。
・・・・争いが嫌なら、最も簡単な方法は平家をあのまま潰すことだった。
それをしなかった望美。

ならば助けたい誰かがいたのだろうか?
望美が助けたかったのは、平家の誰だったのだろう、と。











それからも、日は流れた。
相変わらず望美は邸に現れて、銀の兄弟と笑いあっている。
でも必ず、将臣の所に寄ってくるから、将臣は希望を捨てられずにいる。

(・・・・・・とんでもない小悪魔なんじゃないか?)

二人の夜歩きは一切なくなったが、二人とそういうことになったという訳でもなさそうだ。
相変わらず二人は望美に構い、望美は本気の求愛に気づかないで笑っている。

焦れに焦れた。
そんな日のことだった。






「将臣君!」

いつにない、血相を変えた望美が飛び込んできた。

(――――聞いたか)

気づきながらも将臣は表面上は何でもない風に望美に微笑む。

「よ、どうした?」
「どうしたじゃないよ!け・・・・結婚するってホント・・・?」

やっぱりそれか。
少しだけ将臣は苦笑した。

「まだ話だけだ」
「で・・・でも、話はあるんだ・・・そうだよね・・・将臣君、内大臣で・・・・」

ここで望美が涙ぐんだ。いや泣き出した。

「望美?!」
「・・・嫌・・・!」

小さな抗議。
将臣は僅かに目を見張る。
将臣の知る望美は、いつだって自己犠牲的だ。
加えて自分に特別な感情もないから、驚くくらいで終わる。そう思っていたのに?
思おうとしていたのに。

「・・・・・どうして嫌?」

自分でも笑ってしまいそうになるほど、妙に感情の消えた声だった。
どれほど緊張しているんだ。俺。

望美は傷ついたように押し黙り、将臣を甘く罵った。

「だって、・・・・ひどい、将臣君・・・・言わせたいのっ・・・・?!」

反則。可愛すぎる。
でも駄目だ。―――言わせたい。

「だってお前、知盛とかとだって仲いいし、譲が結婚だって泣くんじゃねえ?」

将臣の意地悪に、望美がむうっと涙目に膨れて、突進した。
まさに体当たりのキス。

「将臣君だからだよ・・・・!和議だって将臣君のために――――っ・・・・」
「ホント?もしかして俺が泣くから?」
「・・・・私だったら泣くもん。だから将臣君もだと思ったんだもん・・・」

キスで言葉を止められて、ニヤニヤと嬉しそうに見つめられて。
どうにも望美は敗北感でいっぱいだ。

言わされたほうが負けってこと?

「お前と同列かよ」
「だって、・・・・二人で一人、だもん」

それはいつだったか、映画で見た台詞。
懐かしいものを持ち出されて、将臣はふっと笑う。
驚くほどに、将臣の中でこだわりが取れていく。

「・・・・・じゃあ、一人に、なろうぜ?」

そっと胸元を抑えられて囁かれる。
意図は十分すぎるほどに伝わったから、望美はコクンと頷いた。
ただ。

「・・・・・・・結婚は私とだけ?」
「ぷっ・・・・まだ言ってんの」
「だって・・・・・」

将臣は、望美を抱き上げる。
几帳の奥、塗籠の方へ。
望美の纏っていた陣羽織と、腰の布を落とす。
これで誰も入っては来ないだろう。
・・・・・・・と、願う。

「――――お前しか、欲しくねえよ」

望美は安堵したように淡く微笑んで、降りてきた将臣の唇をねだった。







「あっ・・・・・ま、将臣君っ・・・・だ、め・・・・っく、くすぐったい・・・・!」
「くすぐったいだけか・・・?」
「そ、そうじゃないけど、アッ・・・・」
「ん?」
「・・・・・・意地悪!」

本当に最初はくすぐったいだけだった。
それがだんだん変わっていく。
淡い疼きに。たまらない刺激に。

「や、恥ずかしい・・・・・!」
「俺しか見てない」
「・・・・・っ、だから、恥ずかしいの!」

将臣は顔を隠してしまった望美の睦言に微笑んだまま、わざと舌を突き出して、両手と舌で望美の両胸を愛撫する。
わざと敏感な蕾は外して、たまに掠めるくらいで。
その弾力と、吸い付くような感触を楽しんでいく。

たまに掠める蕾への愛撫は、最初はただ一瞬の電撃だったものが、徐々に体中を震わせるものに変わっていって、望美は我知らず腰を捩った。

「大きいよな・・・・」
「し・・・しみじみ言わないでよ!」
「でもって敏感になってきた」
「きゃうっ!」

言葉と同時に将臣は両胸の蕾を強引に中央に寄せて、一気に吸った。
望美から、今までになく大きい嬌声があがる。

「気持ちいい?望美」
「気持ちいいっていうか・・・・・その」

いまもあの曖昧な愛撫が開始されていて、望美はそのだんだん自分が作り変えられている感じに軽く怯えている。
本気で怖くならないのは、将臣が余裕で、将臣が相手だからだろう。
これで将臣もオロオロしたりしたら、きっと一緒になってオロオロする。
―――私たちは、二人で一人、だから。

「・・・・・・変わっちゃう、感じ」
「何だソレ」
「わかんないんだもん・・・・」

途方に暮れた子どものように呟く望美が可愛い。
暗闇で見えにくいのが難点だが、白い肌が暗闇に浮かぶ様子はたまらなく淫靡で将臣を煽った。
それをこらえて、望美に火をつけていくのは忍耐も要したが、その甲斐はあった。

「・・・・・・・ここも?」

そう言って、差し入れた望美の秘所は、甘い蜜の音がした。

「ヒアッ・・・・!」
「ここも、分からない・・・・?」

未知の感覚に、望美が喉を反らした。
響く水音が恥ずかしいのか、与えられる直接的な刺激に翻弄されているのか。
―――そう、将臣はもう遠慮していない。
露骨に音を立てながら、望美が感じるだろうところをピンポイントに攻め立てている。

「あっああっ・・・・・やあっ・・・・・!」

望美の逼迫した声は将臣の理性をどんどん壊していく。
大分潤んでいるとはいえ、まだきついはずだ。
将臣は自分を押さえ、望美を高みに追いやろうと胸と同時に未開の場所を解し続けた。
いつまでもつか・・・・・?
将臣が自分に問いかけた、そのとき。

「独り占めはずるいぜ、兄上・・・・?」
「ええ、神子殿が好きなのは私たちもですよ」

突如響いた、二人の声。
将臣は頭が痛くなった。
牽制のつもりで置いた衣が仇になったか。
――――普通は察して諦めるところだぜ・・・・?

「ま、将臣君・・・・」

声を聞かれたことを気づいた望美が涙目で将臣を摘んだ。
さっきまでと違う意味で顔が赤い。
潤んだ目も可愛いのに。

(くそ!)

将臣は望美を宥めるように撫でると、適当に衣を羽織り、塗籠の引き戸を勢いよく開けた。
そこには案の定、二人揃って将臣を待ち構えている。
色の異なる二つの笑顔は、将臣の怒りにも動じない。

「・・・・・・お前らなあ・・・!決着はついたと思うぞ・・・?!」
「まだ私たちは納得しておりません」
「奪うのも一興か・・・・・」

しれっとした顔で重衡が言い、知盛はククッとおかしそうに哂っている。
こいつらは本気だ。
将臣の背後から、望美が顔を出そうとして、将臣は慌ててそれを押し止めた。

「出てくるな!」
「う、だ・・・・だって落ち着かなくて・・・・」
「猛獣に構うな!!」



この日の後も、望美への男たちの攻勢は変わらず・・・・
将臣は現代に還ることを決意した。


「私、ここでもいいよ?」
「いや、還ろう
「だって・・・・・将臣君、心配でしょ?」
「あいつらは生きていける!!」


ちなみに。
望美が将臣と結ばれたのは、結局現代に帰った後だった――という。