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「―――弁慶さん、まだ寝ないの?」
望美は、寝ぼけ眼で寝室から這い出した。
この家は二間続きで、几帳で遮られた奥が二人の寝室になる。
弁慶は手前の部屋でずっと何か読んでいた。
望美に気づくと、弁慶はふと困ったように笑った。
這い出してきた望美の袂から、胸の谷間が見えている。寝ぼけた望美は、それを知らないだろう。
それとも、これは誘惑だろうか?
(……そんなはずないですけどね)
身体を何度重ねても羞恥が先に立つのか、望美はひどく恥ずかしがる。
そんな望美から誘ってくれるなんて、夢のまた夢の向こうだ。
弁慶はなるべく優しい顔のままでと気をつけながら、微笑んだ。
「ええ、まだ少し…。望美さんは眠っててくれて、いいですよ?」
「ん…、じゃあ私もここにいます」
寒いのだろう、衾を持ってくると、望美は弁慶の背中に甘えるように擦り寄った。
背中が暖かくなり、弁慶は頬を緩ませる。まるで猫のようだ。
「困った人だな……」
望美が自分を暖めようとしてここにいるのに、弁慶は気づいている。
それでも、そこに艶めいた何かを期待したいのは、自分が男だからだろうか?
(もう、絶対にあなたを傷つけない。困らせたりしない)
ふと弁慶は、本を置くと傍の蝋燭の灯を消す。
寝息をたてはじめた愛しいひとを、弁慶は衾ごと抱きあげた。
褥に横たえ、自分もそこで横になる。
柔らかなぬくみ。
優しい熱。
抱き締めるだけで弁慶は幸せになれる。
「おやすみなさい、望美さん……」
彼は気づかなかった。
これが優しい最後の夜になったことを。
「んんっ、んっ……」
望美は息継ぎさえも許さないような、かみつくような口づけを懸命に受け止めた。
息苦しさと官能に、目眩がする。
涙が一筋流れた。
いつもの弁慶ならそこでやめただろう。
いや、望美が身を捩った時点で、離れたかもしれない。
しかし、今日の弁慶はやめなかった。
尚更に深く、きつく口づけられて、望美はくぐもった喘ぎを洩らすしかない。
「んっ、はあっ、んうっ……」
角度を変えて差し入れられる舌は、ずっと離れない。絡み合ったまま、何度も唇を啄ばまれて、望美の唇はもう真っ赤だ。
(……どうしよう)
望美は弁慶の腕につかまりながら、必死に弁慶の舌に追いつこうとする。
だが、弁慶の舌は望美を翻弄するかのように自在に動き、歯列の裏から、奥の方まで愛そうとする。
―――望美は困ってきた。
まだ、キスされただけ。
衣越しにさえ、触られてないのに。
「……どうしましたか?」
聞きながら、弁慶が望美の舌の裏をなぞった。
「んっ……」
「何か、言いたげだ」
望美は真っ赤になって、黙り込む。
何て意地悪な顔だろう。
全部全部、お見通しのくせに。